月・ランド

2007年1月28日 (日)

「月ランドへようこそ」番外

記述:--
「また、隣で」

月がその島で自ら裁きを下してから一夜が明けた

翌日、島では月の密葬が行われることになったため
葬儀の準備をする者以外は任意で
島にあるロッジに泊まっていくことになっていた

月の父・総一郎やワタリは月の葬儀の準備のため
一度本島に帰ることになった

「では竜崎、行ってくる」

「はい、気を付けて。ワタリも付いて行かせますから
 安心して下さい」

「・・・ああ」

総一郎は後ろに控えていたワタリを見て
少し安心したように返事をした

「さて、と・・・」

総一郎とワタリを見送ると、竜崎は松田を呼んだ

「何ですか?竜崎」

「少し手伝って下さい」

松田が手伝わされたもの
それは月のパートナーをまとめて埋めることだった

「夜神さんがいない時でないとできませんから」

「確かに、そうですね。
 ・・・月君、最後までバレなくて良かったですね」

竜崎は、せっせと穴を掘る松田を何時もの体制で見つめた

「はい・・・」

竜崎の返事が小さくなったのを感じ、松田は振り向いた

「・・・竜崎・・・?」

振り向いた松田と目が合った竜崎は
とっさに松田から目を逸らした

「いえ、何でもありません。
 1人でやらなくて良かったです。
 1人でやっていたら、それすらも
 埋められなかったかもしれない・・・」

暫く沈黙が続いた後、松田はやっと口を開いた

「そうですね。僕も・・・1人だったら、埋められてません。」

松田は何かを埋めた事がバレないように、
土を掘ったスコップで地面を叩き、地均しをした

「さて、ではロッジに戻りましょうか」

「はい」

2人がロッジに戻ると、大広間では
月の思い出話をしている面々の姿があった

海砂を中心に魅上や高田が月を褒めちぎっている

「あ!竜崎さん!貴方も一緒に話さない?」

海砂は竜崎を見つけるとすぐに竜崎を誘った

「・・・良いですね」

竜崎は海砂の誘いに乗った

かつては月を取り合っていた仲だったが、
こうなってしまった今では、
気の合う仲間のようである

4人は夜遅くまで月についての話題を絶やさなかった

そうしているうちにやがて、
総一郎とワタリが島に帰ってきた

「お帰りなさい。準備は整いましたか?」

「ただいま。あぁ、準備はできた。」

「そうですか、では今日はもう皆さんお休み下さい」

竜崎は総一郎から不備が無い事を確認すると
皆に自室に戻るように促した

そして翌日

ロッジの横に立てた小さな墓石の前に
総一郎が月の遺灰を埋めた

「月・・・私はお前が息子であった事を
 今でも誇りに思っている。だから、この島で
 ゆっくり休みなさい・・・」

総一郎は一昨日、月が倒れた時よりも
冷静な面持ちだった

それはまるで父である威厳と強さを
皆に示すようだった

密葬が全て終わると皆は
毎年この日ー1月28日ーに
この島に集まることを約束して
順番に本島へと帰って行った

「では、私も仕事を何日も休むわけにはいかないから
 そろそろ帰るとするよ。竜崎・・・大丈夫か?」

最後まで残っていた総一郎は式の最中ずっと
黙っていた竜崎を気にかけた

「はい、大丈夫です。私はあと1日
 ここに泊まって帰ります」

「そうか。ではまた仕事を共にする日が来たら
 その時は宜しく頼む」

総一郎は竜崎の肩に軽く手を置いた

「・・・やめて下さい。
 私はもう”L”ではありませんよ」

竜崎は首を横に振った

「何を言ってるんだ。月の中では
 竜崎だけがずっと”L”だ・・・」

総一郎の言葉に竜崎はハッと顔を上げた
そして、ゆっくりと微笑んだ

「・・・そうですね・・・。では、また・・・」

「ああ」

そして、とうとう島には竜崎1人だけが残った

「月君・・・あなたのお父さんは強い人ですね。
 ・・・私はあんなに強くなれません・・・」

竜崎は月の墓前にしゃがみこんだ

「だってまだ、月君がいないなんて
 信じられない・・・。夢なんじゃないですか?
 月君、笑いながら起こして下さいよ・・・」

どれだけ話しかけた所で、島に響くのは
竜崎の声だけだった

「・・・月君・・・、らいと君・・・っ・・・!!」

竜崎は返事の無い静けさに、やっと
月がいない事を自覚したように泣き出した

暫く泣き続け、やっと落ち着いた頃に
竜崎は立ち上がり、夜空に溶け込む満月を見つめた

「月君、月君が傍にいないので、あの月に
 誓っておきます。私は月君が目指した
 犯罪の少ない世界を実現させてみせます!!」

月に向かって竜崎は叫んだ
その後一呼吸おいて、竜崎は付け足した
 
「・・・だから、もし、実現できたら・・・どうか
 月君の隣で眠らせて下さい・・・」

そう言う竜崎の顔はとても穏やかで
見つめた先の満月に、笑顔の月を重ねているようだった

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2006年11月30日 (木)

「月・ランドへようこそ」解説

※ここを読む前にまず、下の17話をお読み下さい。これは私個人の解説ですので、読まなくても大丈夫です。どうしてあの結末にしたのか気になる方は読んでいただけると、何となく分かるかもしれないです。ついでに私のウザイ愛も分かります。(要らないよ)

では・・・

「月・ランドへようこそ」の当初目的はアニメで月君が死んでしまった悲しみを忘れるために、「ギャグを書こう!」というものでした。

しかし、書き始めて3週間くらいで、最初の予定とは真逆の結末を用意しました。ギャグだと終わりの見切りがつかずにダラダラ続いてしまいそうでしたから・・・。やっぱり、しっかりとした「終わり」を用意したかったので、色々考えて・・・考えた結果、あの「終わり」になりました。

「月・ランド」での月君の位置は、デスノートの記憶を持っている白月君でした。要するに、自分が殺人をした記憶がある白月君。絶対自分の事は許せないハズです。そのことも忘れて楽しく暮らす設定も考えましたが、そんなの月君じゃないなぁ・・・と。

それに、そもそも月君の「死」は延長されただけの設定だったので・・・。いくらこの話でのリュークが優しくたって、寿命間際に月君の名前を書くような奴じゃないですから。それを総合して「自殺」はさせたくないけど、「裁き」ならさせられる!ということになりまして、「月君を殺しに来たリュークからノートを借りて自らを裁く」結末を作ったんです。

でも、ただ死んでほしくはなくて、月・ランドでのドタバタした生活を書きました。本当はもう少し短くても良かったのですが、長く書きました。期間にしてみたら半年は経ってます。そのドタバタした中で、月君に「普通の幸せ」を見付けてもらいたかったんです。

ノートを拾うまでは何にも困らないけど、退屈な毎日。拾ってからは充実していたでしょうが、自分を追い詰めることしかしてきてないハズです。そんな彼に少しでも「幸せな生活」を知ってほしかったのです。竜崎の珍行動に突っ込みをいれたり、ケンカをしたり、仲直りをしたり・・・。

キラとしての記憶を持った月君に、その幸せを感じてほしかったのです。結局、月君が死んでしまうのには変わりありませんが、1人で淋しく死ぬのではなく、皆に囲まれて幸せに笑って死んでほしかったのです。

これが、どうしても月君が大好きで仕方が無くて、助けてあげたいと願った御宅な私の回答です。こんな小さいのしか思い付かなかったです。アホだから。でも、精一杯考えました。文も何もかもグチャグチャですが、これで私の中の月君が幸せに死ねるのなら、それで良いです。

原作・アニメ共に大好きですが、何よりも月君が大好きなのです。

これで「月・ランド」はお終いですが、また気が向いたら幸せなお話とかを「月・ランド」とは別に書きたいです。今度こそ、とびっきりのギャグでも良いです。

では、ここまで読んで下さった方がいらっしゃいましたら、本当にありがとうございました。ほんの少しでも笑っていただけたり、「月君・・・」と思っていただけたなら嬉しいです。

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「月・ランドへようこそ」17

 記述:15
 「最後の裁き」

リュークが月の前に現れてから
一夜が経ち、島には約束通り
キラ事件に関係していた人物達が
集まっていた

だが、この島に集められた理由を
誰一人として知らなかった

「皆さんお忙しい中、無理を言って
 すみません。」

これから何が起こるのかと、緊張した
雰囲気の中に月の声が入った

そして、前もって頼んでおいた手順に従い
リュークが島にいる全員の手に自分の
デスノートを触れていった

そこにいる殆どの人物が
リュークの顔を知っている

その所為か、皆大声で叫んだりはせず
ただグッと息を呑んでいた

「今日は皆に、僕の最後の裁きを
 見届けてほしい・・・。そのためにわざわざ
 ここまで来てもらったんだ」

月の言葉にその場が静まり返る

「月君、それはどういう意味ですか?!」

たまらず竜崎は質問をぶつける

「・・・見てればわかるよ」

そう言う月の顔は、以前”キラ”として
世間を騒がせていた時の表情と
とても良く似ていた

「リューク、ノートを貸して」

月の只ならぬ雰囲気に、誰も声を
出すことが出来ずにいた

「今更1人や2人殺したって
 構わないだろ?」

ノートをすぐに渡そうとしないリュークに
月は強く迫った

「分かった・・・ほらよ」

リュークは月に軽くノートを放り投げた

ノートを受け取った月はその場にいる
人物の顔をゆっくりと眺め、一呼吸置くと
ノートに鉛筆を走らせた

そしてノートに字を書き終えた月は話し出した

「安心して下さい。僕が書いたのは貴方達の
 名前じゃありません」

その島にいた月以外の全員が、月に
名前を書かれたと思っていたため
月のその言葉に、同じく全員が驚いた

「じゃ、じゃあ誰の名前を・・・?!」

恐る恐る、松田が訊いた

「・・・ここには、ある大量殺人犯の
 名前が書かれています」

”大量殺人犯”・・・その響きだけでは皆、
イマイチ誰の事だか分からなかった

だが、更に月から語られる内容を聞くうちに
誰の事だか、皆がハッキリと理解した

月がノートに書いたモノ

それは月本人の名前だったのだ

「どうして・・・月君・・・」

声を搾り出すように竜崎は言った

「僕はこの島に来て、やっと自分の
 してきた事に気付いたんだ・・・」

他の者達は竜崎と月の様子を
じっと見守っている

「ただ世の中を綺麗にしたかった・・・。 
 だけど僕がしてきた事は、僕の中の
 ”悪”と何も違わない、同じ行為だった」

「・・・はい」

「でも僕はこの島に来てから
 とても幸せだったんだ・・・・・・。
 皆、優しくしてくれて、平和な毎日・・・。
 だからこそ、余計に自分が許せなかった」

「・・・」

「だから僕は、自らの手で”キラ”を裁きたかった。
 これが僕の結論なんだ・・・。
 どうか解ってほしい・・・。
 それに、そもそもリュークは
 僕を殺しに来たんだしね」

優しく微笑む月に、最早竜崎は
返す言葉を失くしていた

「ゴメンネ、リューク。僕の我侭で掟を破って」

月はそう言うと、リュークにノートを返した

「まぁ良いさ。今まで面白い体験をさせて
 もらったお礼って事にしておく・・・」

「また面白い奴に逢えると良いな」

「あぁ・・・だが、中々お前みたいなのには
 逢えなさそうだ・・・」

その会話を聞き、月と共に”キラ”としての
活動をしていた者達は、座り込み涙を流した

「・・・もうそろそろ時間かな。
 ・・・それじゃあ・・・」

自らの父に買ってもらった腕時計の時刻を眺め、
月は別れの言葉を告げた

「・・・月君っ・・・!!」

他の捜査本部のメンバーに支えられ
立っているのがやっとであった総一郎に代わり、
慌てて竜崎はその場に倒れる月を抱きとめた

「・・・りゅうざき、ぼくが、しんでもなくなよ・・・?
 せいせいした、って・・・わらってくれ・・・。
 いままで、ほんとうに、ありがとう・・・」

「月君の馬鹿・・・。私の気も知らないで・・・。
 ありがとうは、こちらのセリフです・・・」

目にいっぱいの涙を溜める竜崎に
月は最後まで微笑み、そしてゆっくりと目蓋を閉じた

 その人物の名前は夜神月

真面目で正義感の強い父の教育のもと
彼は何不自由なく、それまでを過ごしてきた

そう、容姿や頭脳でさえも
1つとして不自由していなかったのだ

そんな彼が引き起こした”キラ事件”は
ここに本当の終わりを迎えたのであった

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「月・ランドへようこそ」16

 記述:14
 「再びその名を」

ロッジへ戻ろうとした月の背後に
突如現れた黒い影

月は後ろを振り向き
姿を見るなり、その名を口にした

「リューク・・・」

名を呼ばれた死神は感心したように
目を丸めて月の顔を覗き込んだ

「ほぉ・・・俺の名前を覚えてたのか」

本来ならば、月はリュークの名前を
覚えている筈が無い

その姿すら、月に見えているのは
ありえないのだ

何故なら1月28日
ニアが人間界にあったデスノートを
全て燃やしてしまった

当然、月のデスノートに関する
記憶は消えている筈なのだ

「あぁ、リューク。覚えてるよ」

「・・・不思議だな」

そう言いながらもリュークは
心なしか楽しそうに笑った

「僕も、不思議だと思うよ。
 全部ってわけじゃ無いけど
 デスノートの記憶が僕には残ってる」

「お前の場合は長い間
 デスノートを持ちすぎたのかもしれないな」

冗談交じりにリュークが言うと
月は少し淋しそうな表情を見せた

「そうかもしれない・・・。
 でも、また逢えて嬉しいよ。リューク」

「ああ、俺もだ。月」

リュークにとって月は忘れる事のできない
存在だった

退屈だった毎日

それを6年もの間忘れさせてくれたのは
紛れも無い、月だったからだ

「お前、小さくなっちまったな・・・」

「・・・?背は縮んでないよ?」

「いや、そうじゃなくて・・・」

「分かってるよ。リュークにまで
 心配されるなんてね・・・」

月は明るく笑って見せた

「その作り笑いは相変わらずなんだな」

「リュークは前よりも雰囲気が柔らかく
 なったんじゃない?」

何を言われてもその笑顔を崩す事は無く
月は話をはぐらかした

「なぁ、月・・・」

「何?」

「お前の事だ・・・俺がここに来た理由、
 分かってるんだろ?」

「勿論。この日を僕はずっと待ってたよ」

更に無邪気な声を出して答える月に
リュークは言葉を失った

「でもね、もう少しだけ待ってほしいんだ。
 明日、皆をこの島に呼んで話しがしたい・・・。
 それまで待ってくれる・・・?」

「あぁ。1日くらい大差無いからな」

「ありがとう、リューク」

リュークに礼を言うと月は竜崎に
「明日、皆に集まってもらいたい」と
電話で告げた

最初は不思議そうにしていた竜崎も
月の頼みとあれば聞かぬ訳には
いかない

最終的には月の頼みを聞き入れ
翌日、キラ事件に関わった全ての
人物を島に集めると約束した

電話を切り、ロッジに戻った月は
昼間に竜崎が置いていった
ケーキを見つめ、微かに笑った

そして夜は静かに更けていった

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2006年11月22日 (水)

「月・ランドへようこそ」15

 記述:13
 「月日の流れ」

竜崎と仲直りをした月は
日々竜崎の行動を受け入れつつあった

そんな月に竜崎は喜び
毎日のようにケーキやらお菓子やら
沢山の手土産を月に持って来た

しかし、当然島を訪れるのは
竜崎だけではない

この日は月の父親の総一郎も
島に来る予定になっていた

竜崎から電話でその事を
知らされた月は朝から大忙しだ

「ねぇ松田さん、大丈夫?ズレてない?!」

「うん、大丈夫だよ。月君」

ロッジの中にある大鏡の前には
必死な顔つきの月と、それを見守る
松田の姿が映し出されていた

日が高く昇った頃、総一郎は
竜崎と共に島を訪れた

「月、元気だったか・・・?」

月の顔を見るなり駆け出す総一郎

「あぁ、元気だよ。父さん!」

そんな父親の姿につられ、月も
小走りに総一郎の所へ行く

「しかし、本当に細くなったな・・・」

総一郎は月を見つめ
少し心配そうにした

「いや、大丈夫だよ。
 食べ物には不足していないし・・・」

以前から割りと細身の体型をしていた
月が痩せたのは誰が見ても一目瞭然

「・・・それは分かっている。
 そうではなくて、精神的に辛くはないのか
 と訊いているんだ・・・」

「・・・そんな事ないよ。ただ夜に
 あまり眠れないからかな・・・?」

月は自らの父親を心配させまい
として、必死だった

「大丈夫ですよ!月君。今日は
 とても美味しいケーキを持って来ましたから
 きっと夜もぐっすり眠れますよ」

すかさず竜崎もフォローとはあまり言えない
フォローに入る

「ありがとう、竜崎。
 そう言えば父さん、この間の事件は
 どうなった・・・??」

ここぞとばかりに月は話を切り替えた

「あぁ、あの件については解決したよ。
 ニアとメロがお前に意見を聞いて
 逮捕を決意したと言っていた」

数日前、月のもとにニアとメロが
訪れ、事件の推理を要請していた

月はその要請に応え、自分なりの推理を
ニア・メロに提示した

「そうか・・・。なら良かった」

「ニアとメロもお前の力には
 感謝していると言っていた」

「それは何よりだよ」

月は安心した表情を浮かべた

それから暫く、総一郎と月は
近況報告のような会話を続けたが
今も現役で働く総一郎にはあまり
時間が無かった

「おっと、いかん。もうこんな時間か」

気付いた時には、真上にあった太陽も
西に傾きかけていた

「では、また近いうちに来るからな。
 元気でな・・・」

「うん、父さんも。身体に気を付けて」

月と松田は竜崎と総一郎の乗る船を
見つめ、大きく手を振った

「・・・帰っちゃったね」

「はい・・・」

どんどん島から離れて小さくなる
船を眺めながら2人は呟いた

「松田さん・・・先にロッジに戻って
 いて下さい」

「・・・?月君?」

「少しだけ、こうしていたいんです」

「・・・分かった。じゃあ先に入ってるね」

月の要求を断る事はせず
松田は言われるままに、その場を後にした

松田がそこを離れてからも
夕陽の光を受けながら月は
じっと空の方を見ていた

くるりと身を翻し、ロッジに向かおうとした瞬間
月の身体の影を、更に大きな影が覆い隠した

月が振り向くと、そこにはかつて見慣れた
黒い姿の死神が立っていた

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「月・ランドへようこそ」14

 記述:12
 「思いがけない再会」

心地よい海風がロッジの側面を
撫でていく

月はそのロッジの角にしゃがみ込んで
うずくまっていた

(本当に僕は何も服を着ずに
 生活するのか?でも、竜崎の持って来た
 服を着るくらいなら・・・いっそ・・・)

月の心は揺れていた

だがその心の揺れもすぐに収まり
月は1つの決心をした

(良いさ!やってやる!!)

月は勢い良く立ち上がると
幾枚かの葉っぱを自らの腰に巻きつけた

「うん、これでいける!」

「ダメだよ、月君・・・やっぱり裸に
 葉っぱだけなんて・・・。竜崎の持って来た
 服を着た方が良いよ?」

自信に満ちた声を出す月を
松田は必死で
止めようとしていた

だが、その声は月に届くことは無かった

「いいえ、松田さん。アイツは
 これ位しないと分からないんです!!」

「月君・・・」

松田は涙を堪えるのに必死だった

しかし、事はこれだけに
留まらなかったのだ・・・

普段、竜崎が使用している島の出入り口とは
違う、茂みの方から音がした

「・・・月君、何か音がしませんか・・・??」

「あぁ、確かに・・・。でも竜崎じゃなさそうだな」

するとすぐに茂みから何人かの人が現れた

『今回、HNNの独占取材でお送りする
 この無人島探索!!リポートは・・・』

(・・・何だって?!独占取材?!
 無人島探索?!)

月は茂みから聞こえてきた声に
驚きを隠せなかった

この島は竜崎が最初から
所有している島のハズだ

その真相を確かめるために
声のする方へ月は走り出した

「待って!月君!!その格好で・・・!!」

ほぼ裸の状態で走って行く月に
松田は声を上げたが、当然その声も
月の耳には届かなかった

「ちょっと、一体何ですか?この島は・・・」

月は茂みをかき分けた先にいた、2人の
女性リポーターに向かって話しかけた

だが、月が話しかけた女性のうち1人は
月の話も全く聞かずに何やら勝手な事を
言い出したのだ

『何と!驚きです!!原住民の方が
 いらしゃいました・・・!!』

「なっ?!ぼ、僕が原住民?!」

自分が今している格好を忘れていた月は
声を裏返らせて驚いた

そして、その姿の月を見て驚いた人が
更に1人・・・2人いたリポーターのうち
もう片方の女性だった

「・・・・・・・や、夜神君・・・・・?」

その声の方を向くと、そこには月が
かつて大学で親しくし、その後もキラとしての
繋がりを持った女性が立っていた

「・・・高田さん・・・・?」

ただそれ以上お互いに声も出さずに
立ち尽くす月と高田

その微妙な空気に割り込むように
月の後を追って走ってきた松田の声が入った

「ちょっと、もう・・・何やってるんだ月君!!
 あと、そこのリポーターさんも、
 ここはただの無人島じゃないですから
 何も無かった事にして帰って下さい!!」

物凄い勢いでリポーターに迫る松田に
リポーターも驚き、後ずさった

「それから、タッキィ・・・この事は他に
 洩らさないで下さいね・・・!!」

「は、はい・・・。大丈夫です。
 他言はしません」

高田も、ただ事ではない松田の雰囲気を
感じ取り、それ以上深くは語らなかった

「それでは、お引取り願います」

『はい。失礼しました・・・』

こうして2人の女性リポーターと
数人のカメラマンなどは、島を後にした

「もう月君、そんな格好でいたらマズイ
 って分かっただろ?とりあえず服を
 着なよ・・・」

月は松田に何も言い返す事が出来ず
黙って竜崎の持って来た服を着た

その後松田からの連絡を受けて
竜崎が島に来た

「スミマセン。上手く私の指示が
 行き届かなかったみたいで・・・。
 大変な思いをさせてしまいましたね」

「・・・いや、もう良いよ・・・」

小さく返事をする月の格好を見て
竜崎は満足げに微笑んだ

「・・・ペアルック、着てくれたんですね。
 良くお似合いです。月君」

「ち、違う!!僕は着たくて
 コレを着たわけじゃ無い・・・!!」

「・・・ちゃんと分かってますよ。
 ほら、月君。ちゃんと貴方の服を
 持って来ましたから、
 すぐこちらに着替えて下さい」

「あぁ・・・ありがとう」

かくして2人の馬鹿げたケンカは
幕を閉じたのであった

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2006年11月13日 (月)

「月・ランドへようこそ」13

 記述:11
 「ファッションセンス」

先日の嵐の日から一夜明け
天候が穏やかな日が続いていた

ただ月の心には雲がかかっていた

(竜崎が僕に優しくしてくれるのは
 ありがたい・・・でも・・・)

そんな月の気持ちをよそに
この日も竜崎は月の前に現れた

「月君、元気にしていましたか?」

「あぁ、昨日会ったばかりだからね。
 何も変わった事は起きていないよ」

月が皮肉を交えたセリフを吐いたところで
竜崎の態度は一向に変わらない

月の言葉を、本人の発したソレと
同じ意味には解釈していないのだ

「ところで月君、今週の分の
 着替えを持ってきましたよ!!」

「いくら何でも海の水で洗濯した物は
着られませんから」と、竜崎は週に1度は
新しい着替えを律儀に月の元へよこしていた

「何時もすまない。ありがとう」

「あと、こちらの物も何時も通り
 入れてありますからね」

「助かるよ。これがないと不安で不安で」

月が安堵した表情で手に取っているのは
もはや月の身体の一部と言っても過言ではない
頭の上のパートナーだった

そして月は早速袋の中の服を取り出した
のだったが・・・

「え?ちょっと何?コレ・・・」

月の手に握られている物は
真っ白なTシャツ そして
少し色の浅いジーンズだった

嫌でも毎日目にしている覚えのある
その2点セットを握ったまま、月は
目の前に立っている人物の格好と
照らし合わせてみた

「いや・・・コレ、お前の服じゃないか!!」

「いいえ、違います。こちらは月君用に
 新しく購入した物です。私のお古じゃありません」

何時もの如く月の突っ込みは軽くスルーされた

「そうじゃないだろ?!何で僕が竜崎と同じ格好を
 しなくちゃいけないんだ?!僕の服なら家に
 まだあっただろう・・・?!」

「・・・ペアルックというやつです。
 1度やってみたかったんですよ」

堂々と言い放つ竜崎に、月は
反撃する気力を奪われてしまった

「・・・どうしてもコレ着なきゃダメなの・・・?」

月は半分諦めた表情で竜崎に問いかけた

「・・・全く、月君は我侭ですね・・・。
 仕方が無いですから、特別に用意した
 これを・・・」

チラリと月の方を見て、わざとらしく
竜崎は「我侭」という単語を強調してみせた

だがしかし、既に戦意を失ってしまった月は今更
竜崎に何と言われようが、言い返す気力も無かった

そう、本当に無かったのだ

その服を目にするまでは・・・

「えぇ?!何これ・・・本当に何これ・・・!!
 どういう事だよ?竜崎・・・!!」

竜崎から手渡された服は
月の顔がプリントされたTシャツだったのだ

「ちょっと、コレさっきのよりも酷いよねぇ?!
 っていうか、何で僕?!」

月は竜崎に掴みかかり、質問をぶつけた

「何か御不満でも?なかなか良い写真写りですよ?」

「そういう問題じゃないだろ?!何だよ、本当に。
 こんなんだったら裸でいた方がまだマシだ!!」

手に持ったTシャツを竜崎に投げつけて
月はロッジの外へ走って出て行った

(何だよもう、散々僕のセンスが悪いって
 言っておいて!!自分の方が何万倍も
 センス悪いじゃないか!!本当に裸で
 生活してやるぞ・・・!!)

しかし、この月の決心が
更なる波紋を生むことになろうとは
この時はまだ誰も知らない

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「月・ランドへようこそ」12

 記述:10
 「ありえない訪問者」

ニア・メロが島に来てからというもの
月は竜崎への対応に困り果てていた

相変わらず毎日の様に島に来る

その上、父の総一郎ですら
頻繁に島に訪れるようになっていたのだ

(これじゃあ僕は何のために
 生かされているのか分からない・・・
 ヅラだって父さんに何時バレるか・・・)

月は心身共に病んでいた

そんなある日、月がこの島に来て以来
初めての嵐がやってきたのだ

荒れ狂う海の波を月はロッジの窓から眺めていた

すると、どこか見た事のある
人影が海から島へ上がってきた

月はその姿を見て驚いた

いや、驚くなんて言葉では簡単に
表せないほどの衝撃と恐怖だった

「・・・み、魅上・・・・・・?!」

月は恐る恐るロッジから出た

そこにいたのは確かに
第4のキラ、魅上照だったのだ

「魅上、どうして・・・?!」

「神・・・お会いしたかったです!!」

魅上は月を見るや否や
すぐに月に飛びついた

「もう離しません、一緒に暮らしましょう」

月は言葉も失い
魅上を抱きしめ返してやるべきか
手を迷わせながら、考えていた

「ちょっと!!ライトに何て事してるのよ!
 このストーカー!!」

すると、今度は月の後方から
聞き慣れた高い声が耳に入ってきた

「あ、弥・・・?!」

魅上が驚くその言葉に反応して
月もようやく後ろを振り返った

「ミサ・・・!!」

「何よ!折角オフもらえたからライトに
 会いに来てみれば・・・。何でアンタが
 此処にいるわけ?!」

「私が神のもとにいては、いけないと
 言うのですか?!神のいる所に私も
 御仕えする、それが私の役目・・・!!」

(魅上、日本語変だから・・・)

月は自分の事で言い争いになっているのも
忘れ、頭の中で突っ込みを入れていた

「いいえ、お2人共、月君から離れて下さい!!」

そして遂に月にとって1番恐ろしい人物が現れた

「さぁ月君、もう怖くないですよ」

魅上と海砂に挟まれた状態にいた月の手を引っ張り
竜崎は自分の方へと月を引き寄せた

(お前が1番怖いよ・・・!!)

月は何をどう言えば良いのか分からず
ただ恐怖を感じているだけだった

「月君は私のモノですよ。分かったら
 お2人共さっさと帰って下さい!!」

竜崎が魅上と海砂を睨むと
2人共観念した様子になった

「分かったわよ、今日はもう帰るわ」

「神・・・また必ず来ますから!!」

「ちょっと待って、何かが違うだろ!!
 これで良いのか?!」

月の突っ込みも虚しく、魅上と海砂は
島から出て行ってしまった

「さ、邪魔者もいなくなりましたし
 ケーキでも食べましょう!月くん。
 美味しいやつを持ってきたんですよ」

隣にはやけに上機嫌の竜崎がいるだけで、
月はまた溜め息をつくのだった

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2006年10月26日 (木)

「月・ランドへようこそ」11

 記述:9
 「Lの名」

”仕事を手伝う代わりに死刑にはしない”
という約束で自分の命は助かったハズなのに
一向に仕事を持ってくる気配の無い竜崎

だが、遊びに来るついでに
月の着替え用の服やヅラの換えを
持って来てくれていたので、あまり
強い事も言えず今日まできてしまったのも事実

そんな微妙な月の葛藤を
壊す事となる2人が、月のいる島にやって来た

「お久しぶりですね。キラ」

全身白っぽいクルクル頭と
相変わらず板チョコを頬張るおかっぱ頭

そう、ニアとメロだ

「あぁ、久しぶり。今日は何しに此処に?」

月の質問に2人の顔色が変わった

「あの腑抜けの代わりですよ」

「・・・腑抜けって・・・?」

ニアの言う”腑抜け”が、月には分からなかった

「”竜崎”と言えば分かりますか?」

冷静な言葉遣いなのに、どこか
禍々しい雰囲気を出しながらニアは月に言った

「・・・キラの所為ですよ・・・?」

「・・・何でそうなるんだ・・・?!」

自分の所為だと言われる原因の分からない
月は、とりあえず質問をぶつけてみた

「アイツ、最近仕事をちっともやろうとしない」

「珍しく真面目に資料を見てると思って
 覗き込めば、キラ・・・すなわち、貴方の写真を
 眺めてるだけなんですよ」

(僕の写真?!何時撮ったんだ?そんな物・・・)

「それに、アイツ・・・お前の着替えを袋に入れる時に
 ブツブツ何か言いながら頬ずりしてたぜ・・・?」

「全く、とんだ腑抜けになってしまったものですよ。
 私達はあんなのに憧れていたなんて・・・」

【いや、いやいやいや!
 そうじゃないだろ!!
 それは腑抜けとかそういう問題じゃなくて
 ただの変質者じゃないか・・・!!】

月の頭には次々に言葉が浮かんだが
そのどれもが決して声にはならなかった

いや、正確には声にも出せないほどの衝撃だったのだ

そんな月をよそにニアは話を進めた

「ですからこれからは私達が仕事を持ってきます。
 キラは私達の手伝いをして下さい」

「・・・竜崎は何て?」

「勿論了解済みだ」

「それどころか、あっさり”L”の名すら
 私達にくれましたよ」

冷たい視線と共に言い放たれる言葉が
月の胸を刺した

言い様の無い虚しさを感じながら
月は改めて人間の恐ろしさを学んだ

「うん、分かったよ・・・。
 手伝うから、今日はもう帰ってくれ」

「そうですね。仕方ありません。
 日を改めてまた来ます」

ニアとメロは月に同情しているのか、意外と
アッサリ月の要望は受け入れられた

「あぁ、どうせ毎日腑抜けは来るだろうがな」

「胸中お察しします、キラ」

そう言い残し、新たな”L”となった2人は
島から出て行った

月はただ漠然と、竜崎への
講義の念を頭に浮かべるだけであった

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2006年10月17日 (火)

「月・ランドへようこそ」10

 記述:8
 「狂いだした生活」

竜崎が用意した島での生活が
始まった次の日

電話で言っていた通り
本当に竜崎は島に訪れた

「本当に来るとは思わなかったよ。
 まさかただ遊びに来たわけじゃないよね?」

月は冗談混じりに笑ってみせた

少なくとも、今まで月の目には
竜崎が自分のもとにただ遊びに
来るようには見えなかったのだ

「いいえ。そのまさかです」

しかし竜崎は月のその考えを
いとも簡単に否定してみせた

「え?それ本気・・・?」

月は精一杯思考を巡らせたが、
結局竜崎に質問する形をとった

「本気ですよ。いけませんか?」

ちっとも悪びれる様子も無く
言ってのける竜崎に、月は溜め息をついた

そんな月の様子に構いもせず
竜崎は楽しそうに鼻歌を歌い
勝手にロッジへ入っていった

月の隣にいながらも竜崎から全く無視されていた
松田に、月はお茶の用意を頼んだ

「全く・・・約束と違うじゃないか」

「何がですか?昨日きちんと電話で
 今日此処に来る事は伝えたでしょう?」

綺麗に4つ並べられた椅子に座ろうとはせず
部屋の隅々を見て回りながら、竜崎は答えた

「その話じゃないよ。何で僕が死刑にならなかったんだ?
 って訊いてるんだ」

直接的な表現をしなくても会話を成立させる
自信がある月は、敢えて遠回しに尋ねた

「あぁ・・・あの話ですか。でもまあ良いじゃないですか。
 ただ遊びに来るのはいけないんですか?」

「いや、いけないとは言っていないが・・・。
 でも君にも自分の仕事があるだろ?
 何時までも僕に構ってばっかりじゃ・・・」

話の焦点が合ったと思えば、開き直ってしまった
竜崎を諭すように月は言った

「私が良いと言ったら良いんです」

竜崎は強引に話をまとめると
松田の用意した紅茶の匂いを嗅ぎつけ
すぐさま椅子に座った

勿論、何時ものお決まりのポーズで座っている

「竜崎、昨日ぶりですね」

松田は「昨日ぶりなのに僕の事は無視ですか」
という皮肉を込めて言葉を発した

「はい、そうですね」

だが、竜崎はそんな事を気にも留めていない

・・・いや寧ろ、本当に松田など眼中にない感じだ

月は何とか松田をなだめながら
竜崎にも上手いこと話をつけようと頑張った

しかし竜崎は中々話を聞き入れようとはしなかった

それどころか、1週間のうちのほぼ毎日
何らかの理由をつけては月のいる島に訪れ、
その日の大半を過ごしていた

そんな生活がもう3週間も続き
いい加減諦めの色が顔に出てきていた

「やぁ、竜崎。また会ったね。
 当然、遊びに来たんだろ?」

その頃には、これが月の口癖になってしまっていた

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