「月ランドへようこそ」番外
記述:--
「また、隣で」
月がその島で自ら裁きを下してから一夜が明けた
翌日、島では月の密葬が行われることになったため
葬儀の準備をする者以外は任意で
島にあるロッジに泊まっていくことになっていた
月の父・総一郎やワタリは月の葬儀の準備のため
一度本島に帰ることになった
「では竜崎、行ってくる」
「はい、気を付けて。ワタリも付いて行かせますから
安心して下さい」
「・・・ああ」
総一郎は後ろに控えていたワタリを見て
少し安心したように返事をした
「さて、と・・・」
総一郎とワタリを見送ると、竜崎は松田を呼んだ
「何ですか?竜崎」
「少し手伝って下さい」
松田が手伝わされたもの
それは月のパートナーをまとめて埋めることだった
「夜神さんがいない時でないとできませんから」
「確かに、そうですね。
・・・月君、最後までバレなくて良かったですね」
竜崎は、せっせと穴を掘る松田を何時もの体制で見つめた
「はい・・・」
竜崎の返事が小さくなったのを感じ、松田は振り向いた
「・・・竜崎・・・?」
振り向いた松田と目が合った竜崎は
とっさに松田から目を逸らした
「いえ、何でもありません。
1人でやらなくて良かったです。
1人でやっていたら、それすらも
埋められなかったかもしれない・・・」
暫く沈黙が続いた後、松田はやっと口を開いた
「そうですね。僕も・・・1人だったら、埋められてません。」
松田は何かを埋めた事がバレないように、
土を掘ったスコップで地面を叩き、地均しをした
「さて、ではロッジに戻りましょうか」
「はい」
2人がロッジに戻ると、大広間では
月の思い出話をしている面々の姿があった
海砂を中心に魅上や高田が月を褒めちぎっている
「あ!竜崎さん!貴方も一緒に話さない?」
海砂は竜崎を見つけるとすぐに竜崎を誘った
「・・・良いですね」
竜崎は海砂の誘いに乗った
かつては月を取り合っていた仲だったが、
こうなってしまった今では、
気の合う仲間のようである
4人は夜遅くまで月についての話題を絶やさなかった
そうしているうちにやがて、
総一郎とワタリが島に帰ってきた
「お帰りなさい。準備は整いましたか?」
「ただいま。あぁ、準備はできた。」
「そうですか、では今日はもう皆さんお休み下さい」
竜崎は総一郎から不備が無い事を確認すると
皆に自室に戻るように促した
そして翌日
ロッジの横に立てた小さな墓石の前に
総一郎が月の遺灰を埋めた
「月・・・私はお前が息子であった事を
今でも誇りに思っている。だから、この島で
ゆっくり休みなさい・・・」
総一郎は一昨日、月が倒れた時よりも
冷静な面持ちだった
それはまるで父である威厳と強さを
皆に示すようだった
密葬が全て終わると皆は
毎年この日ー1月28日ーに
この島に集まることを約束して
順番に本島へと帰って行った
「では、私も仕事を何日も休むわけにはいかないから
そろそろ帰るとするよ。竜崎・・・大丈夫か?」
最後まで残っていた総一郎は式の最中ずっと
黙っていた竜崎を気にかけた
「はい、大丈夫です。私はあと1日
ここに泊まって帰ります」
「そうか。ではまた仕事を共にする日が来たら
その時は宜しく頼む」
総一郎は竜崎の肩に軽く手を置いた
「・・・やめて下さい。
私はもう”L”ではありませんよ」
竜崎は首を横に振った
「何を言ってるんだ。月の中では
竜崎だけがずっと”L”だ・・・」
総一郎の言葉に竜崎はハッと顔を上げた
そして、ゆっくりと微笑んだ
「・・・そうですね・・・。では、また・・・」
「ああ」
そして、とうとう島には竜崎1人だけが残った
「月君・・・あなたのお父さんは強い人ですね。
・・・私はあんなに強くなれません・・・」
竜崎は月の墓前にしゃがみこんだ
「だってまだ、月君がいないなんて
信じられない・・・。夢なんじゃないですか?
月君、笑いながら起こして下さいよ・・・」
どれだけ話しかけた所で、島に響くのは
竜崎の声だけだった
「・・・月君・・・、らいと君・・・っ・・・!!」
竜崎は返事の無い静けさに、やっと
月がいない事を自覚したように泣き出した
暫く泣き続け、やっと落ち着いた頃に
竜崎は立ち上がり、夜空に溶け込む満月を見つめた
「月君、月君が傍にいないので、あの月に
誓っておきます。私は月君が目指した
犯罪の少ない世界を実現させてみせます!!」
月に向かって竜崎は叫んだ
その後一呼吸おいて、竜崎は付け足した
「・・・だから、もし、実現できたら・・・どうか
月君の隣で眠らせて下さい・・・」
そう言う竜崎の顔はとても穏やかで
見つめた先の満月に、笑顔の月を重ねているようだった
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